全ての社会人に必須とも言える「Win-Win」の考え方。
「自分と相手の双方が利を得る形に収束させよう」というこの考え方だが、果たして両者が幸せになればそれで万事OKなのだろうか?
答えはNOだ。
今回は、当たり前のように利用されているこの言葉の意味を「企業の存在意義」と併せて考えてみよう。
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私的成功と公的成功の関係
まずは第4の習慣「Win-Winについて考える」が、7つの習慣の中のどのような立ち位置にあるかを確認しておこう。
■私的成功(Private Victory)
第1~3の習慣が該当する。
他者に依存した状態から「自立」を獲得した状態へ。
■公的成功(Public Victory)
第4~6の習慣が該当する。
他者と協力し合い、相互依存の状態に至ることで相乗効果を発揮し、一人では成し遂げられなかったことを成し遂げる。私的成功なくして公的成功はありえない。
これ、マズローの欲求5段階などというトンデモ理論とは訳が違うんだ。土台があって初めてその上が実現できるという意味では、「自立」から「相互依存」へというプロセスを考えると、論理的かつシンプルで、非常に説得力があるんだ。
相互依存よりはるかに成熟した状態であり、高度な概念である。…相互依存の段階に達した人は、他者と深く有意義な関係を築き、他の人々が持つ莫大な能力と可能性を生かすことができる。
(P.66―『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』P.55)
私的成功を実現していなければ、公的成功にいたることはできないのだ。しかし、多くの人がその道のりを省略したがり、他人との関係を表面的なテクニックで片付けようとする。確かに、人間関係の問題は急性の痛みを感じることが多い。痛みが強烈なので、つい応急処置をしたくなる。だが、応急処置では、本当の人間関係を築くことはできない。
(P.68)
自分がセオリー通りに努力・行動したとしても結果が伴う保証がないため、公的成功は非常に難易度の高い概念となっている。相手は気まぐれな、にんげんだもの。
過去記事でも言及しているが、全ては「信用」の上に成り立つものであり、信用を獲得するまでには時間と激しい苦痛が伴う。理屈以前に相手との相性の問題もあるだろう。一朝一夕に構築されるものではないため、長期間に渡って時間・労力を投資する覚悟が必要だ。
「Win-Win」の基本概念のおさらい。交渉のテーブルで最も力を持つのは誰だ?
過去記事みんなが嫌う「朝会」がプロジェクトマネジメントで大切な理由。 - プロジェクトマネジメントの話とか
にて、メンバはチームなどどうなっても良い、自己中心的な存在だと書いた。
また、なぜ人は相手の話を聴かないのか?―ゼロから学ぶ7つの習慣【第5の習慣】 - プロジェクトマネジメントの話とか
にて、人はそもそも自己中心的だ、とも書いた。
繰り返しになるが、「人は自分が一番可愛い」という大前提を理解しておこう。そのような要望の権化が交渉のテーブルについたとしたら、一体どうなるだろうか?
サーバチーム「この仕様はパフォーマンス重視でアプリ側で実装するのが筋でしょう?アプリさん、お願いしますよ~」
アプリチーム「いやいや、仕様変更に柔軟に対応できるようにサーバに寄せるべきですよ。是非ともサーバ担当の部署でお願いします!」
日常的に見かける非常に醜い、情けない応酬である。みんな「オレがオレが」である。押し合いへし合いのカオス。上っ面のWin-Winの名の元、どうすれば自分の利益が最適化されるか、しか考えていないわけだ。
……という前提に立って、お互いが納得して幸せになれる案に着地させたいね、そのようにして長期的な関係を築きたいね、というのがWin-Winの思想だ。
そして、そのような交渉のテーブルの場で一番力を持つのは、必ずしも「日頃の力関係の中で強い立場にいる者とは限らない」、ということを強く意識しておこう。
本当に強いのはNo Deal(=取引をしない)のカードを堂々と切れる者なんだ。
ケースバイケースではあるが、交渉に臨む前に「交渉から降りる準備」が整えられた時点で、「負け」は無くなる。たどり着く結果は「勝ち」か「自ら選択した引き分け」のどちらかのみとなるんだ。
不毛な揺さぶりにも一切動じず、余裕を持って対等な立場で交渉のテーブルにつくことができる。「堂々と断れる」という自信が獲得できれば、一方的な圧力から解放されると共に、交渉中のパフォーマンスも劇的に向上することになる。
やっとここから本題!オフショアで幸せになるのは誰か?
前置きが凄まじく長くなりましたが、ここからが本題です。お互いの努力が実り、「Win-Win」が実現できたとしよう。
(そして後日・・・)
発注元の日本企業「当PJの開発はぜひとも御社に依頼したいのです!」
中国の開発ベンダー「宜しくお願いします!シェイシェイ!」
見事なWin-Winである。――であるかのように見える。
ここでよく考えていただきたい。海外の開発ベンダーに依頼したはいいが、このタイミングで日本の開発ベンダーが仕事を受注する機会を失ったことを、認識されていただろうか?日本を元気に!ガンガン経済を回していこう!などと言いながらも、コストカットでオフショアなのである。
もちろん、私はオフショア開発を否定しているわけではないし、今後のIT業界ではそれが常識になっていくと考えている。日本人プログラマは本当に優秀な、ごく一部のモンスターしか生き残れなくなる可能性も高いだろう。
下記の「図1」をご覧いただきたい。
図1:オフショアの負の側面
ここで言いたいのは日本経済が部分的に損なわれているという「事実を認識しているか?」ということだ。認識した上で取引を行うのであれば問題ない。
自分の意識が「自分(自社)と取引相手」にしか向いていない場合は問題だ。結局は自分(自社)のことしか考えていない、ということになるからである。
その取引は、ユーザーのためになっているのか?日本のためには?世界のためには?常に意識する必要がある。
この観点が非常に重要になるのだが、そうは言ってもみんな「オレがオレが」のにんげんだもの。「社会貢献」などというキーワードなど、ただの綺麗ごとにしか感じられないことだろう。「社会貢献」の重要性について、次項以降で考えてみよう。
身近な例としてGoogleAdSense(広告)を考える
ここで、ある一つの企業を例に挙げてみよう。Google先生だ。みんなに馴染みのある「Google AdSense」を例に考えてみよう。
6. 悪事を働かなくてもお金は稼げる。
Google は営利企業です。企業に検索テクノロジーを提供することと、Google のサイトやその他のウェブサイトに有料広告を掲載することで収益を得ています。世界中の数多くの広告主が AdWords で商品を宣伝し、数多くのサイト運営者が Google の AdSense プログラムでサイトのコンテンツに関連する広告を配信しています。広告主様だけでなく、すべてのユーザーの皆さんにご満足いただくため、Google では広告プログラムとその実践について次のような基本理念を掲げています。
Google について | Google
■登場人物
- 広告主
- Google社
- ブロガー(サイト主)
- ユーザー(サイト閲覧者)
「三方良し」ではなく「四方良し」である。四方八方への影響を考慮し、行動に移しているわけだ。基本的なモデルは下記の「図2」のようになる。
図2:Google AdSenseの基本モデル
しかしネット上の実態は、下記「図3」のようになるはずだ。
図3:Google AdSenseのインターネット上での実態
関係者が多ければ多いほどシナジー効果(=相乗効果)は増大し、世界に与えるインパクトも増幅される。結果的にリターンの規模も爆発することになるんだ。
逆に言えば、「自分と相手の1:1のWin-Winだけ」では、自分の利益だけしか見えていない状態とほぼ同義だと考えてよいのだ。
取引先の向こう側に存在するユーザー、日本、世界の利益が考えられて始めて、企業の価値は本当の意味で高まるのだ。
Google社が世界で最も危険な理由
続けて社会貢献の観点でGoogle社の活動を見てみよう。ちょっと思いついた例を挙げてみる。
◆3.11の東日本大震災
地震発生後から爆速で次々にサービスを立ち上げていった話は有名だ。
また、震災・災害関連時の活動について特筆すべきは、Google社だけでなく、周囲の企業も積極的に協力してプロジェクトを推進している、という点(本来有償の商用データを積極的に開示するなど)だ。まさにシナジーの理想形である。
ttp://www.google.org/crisisresponse/kiroku311/:favicon:title:bookmark
【東日本大震災、そのとき技術者は】 Google「命令などはなく、全員ができることを一斉に始めた」 - INTERNET Watch Watch
- 作者: 林信行,山路達也
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◆2014/2/17の山梨県の大雪・豪雪
メディアが被害状況をまともに報道できず、完全に孤立状態に陥っていた地域が存在する中、クライシスレスポンスにて通行実績情報を迅速に提供した。このニュースを聞いたときも震災時同様、私は強く感動した。
大雪被害の甲信地方、道路の通行状況を「Google災害情報マップ」で公開 - ITmedia NEWS
◆貧困、環境、野生動物保護、その他諸々
さまざまな社会貢献活動に精力的にリソースを投入するGooogle先生。
GoogleのCSRコンテンツが超絶すぎるっ!世界を本気で変えにいく「Google Giving」 | CSRのその先へ
もはや本業が何なのかすらわからない。これはもはや神の領域だ。
Goolge社の基本理念は「Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることです。」である。
断言しよう。これは半分嘘である。
具体的には「Google の使命は…使えるようにすることにより、世界中の人々がより良い人生を送れるようにすることです。」が正だ。
世界を本気で良くしようと必死に考え、それを爆速で行動に移し、継続的に結果に結び付けている。そこにはもう「Win-Win」などという姑息な概念は存在せず、あるのは「Win-Win-Win-Win-Win…」なのである。
それが結果的に利益に還元されることを熟知しているので、一切の迷いもなく堂々と「人類への貢献」に対して存分にリソースを投入することができるんだ。
ちなみに、「技術力が高い」ということは実は大した話ではない。このように本気で世界を変えよう、良くしようと考える企業がこのまま成長すれば、良くも悪くも地球を支配するほどの凄まじい影響力を持つことになるだろう。もうなってるケドね。
※私はGoogleがこのまま基本理念を変えずにどんどん世界を良い方向に変えていって欲しいと願っています。
プロジェクトは小さなWin-Winの集合体
このブログが「プロジェクトマネジメント」のブログだということを忘れかけていましたが…最後にプロジェクト管理の場合について考えてみよう。
まずチーム内部での関係は、各メンバ間、およびPL(プロジェクトリーダー)、PM(プロジェクトマネージャー)らが常にWin-Winとなることが目標となる。
超口下手な天才プログラマーと体育会系のSEがタッグを組めば、
プログラマ「あ…え…その…仕様は…」
SE「よしわかった!お客様と調整してくるから残りを今日中に実装しておいてくれ!」
(お客様へ電話。)
SE「お世話になってますー!例の仕様変更の件ですが、やはり…ええ。そこを何とか!…ああ、あの店!?今度行きましょう!じゃあ!」
(・・・5分後)
SE「あ、うまいこと断っておいたからネ!」
プログラマ「これ…」SE「ええッ!?もうできたのっ!?」
というような漫画のような都合の良い展開になるかは全くもって不明だが、各メンバ同士の「強みの掛け算」をうまく機能させることでシナジー効果は増大し、プロジェクトは成功へ導かれるんだ。
そこに必要なのは、月並みだがコヴィー博士が繰り返し訴える「信頼関係」というひと言に尽きるわけだ。何だかんだいって、結局は飲み会が有効だったりもするんだよね。
図4:プロジェクトにおけるWin-Winの網の目
各メンバ、PL、PM、各ステークホルダー、そしてユーザー。全ての関係がWin-Winの集合体であるべきというわけだ。現実は甘くない。が、そこが目指すべき目標であることには変わりはない。
そしてGoogle社の活動論理と同様、外部への貢献度が大きければ大きいほど、その個人・組織は外部から必要とされるわけだ。
さあ、外を向いてみよう――。
まずは目の前の相手を。
次にチームを。
そして部署、会社、地域、日本、世界を。
君が動けば周りも少しずつ動いていくのだから。
◆7つの習慣:記事まとめ
人生の終わりから考える。ゼロからやさしく学ぶ7つの習慣【第1・第2の習慣】 - プロジェクトマネジメントの話とか
なぜ人は英語の勉強や運動をサボるのか?―7つの習慣【第3の習慣】から考える。 - プロジェクトマネジメントの話とか
「Win-Win」の大きな勘違い―Google社と7つの習慣【第4の習慣】から考える。 - プロジェクトマネジメントの話とか
なぜ人は相手の話を聴かないのか?―ゼロから学ぶ7つの習慣【第5の習慣】 - プロジェクトマネジメントの話とか
口下手なプログラマと体育会系SEの処世術―7つの習慣【第6の習慣】から考える。 - プロジェクトマネジメントの話とか
人のため?自分のため?社会貢献の誤解と7つの習慣【第7の習慣】 - プロジェクトマネジメントの話とか
※各習慣は密接に関連し合っているため、あわせて読まれることをお勧め致します。
まんがでわかる7つの習慣3 第3の習慣/第4の習慣/第5の習慣
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